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Field Note

フィールド・ノート  NO.Ⅲ

Category 共生

アリとカタクリの

不思議な関係

早春の里山の風景に欠かせない紫色の妖精「カタクリ」。

その艶やかな花を終えてしばらく経つと蒴果(さくか)と呼ばれる果実体が出来ます。

中には種が入っていますが、蒴果乾燥して裂けると中から種子がこぼれ落ちます。

 

するとその種を「待っていました」とばかりにセッセと拾っては何処かに運んで行くいものがいます。

小さな働き者。アリです。

 

せっかく生まれてきたばかりの種を持っていかれて、カタクリはさぞや悲しかろう…と思うと、実はこれがカタクリの生き残り戦略なのです。

 

草花はそれぞれの子孫繁栄のために種子をできるだけ広い範囲に散らすシステムや巧みな方法を持っています。

その方法には、例えば種子の落下による「重力散布」や風に運ばせる「風散布」などがありますが、カタクリのようにアリに運ばせて子孫繁栄のためのテリトリーを広げる「アリ散布植物」と呼ばれる植物があります。

 

では、そのカタクリ。どのようにしてアリを利用しているのでしょうか ?

 

「アリ散布植物」はアリに種子を運ばせるために果実や種子に特別な付属体を付けます。

これが“エライオソーム”と呼ばれるもので、アリにとっての主な食料となっています。

 

エライオソームは白色または乳白色をしています(海外では赤や黄色のものも見つかっています)が、オレイン酸やリノール酸などの脂肪酸とグリセリド、また水溶性のアミノ酸、フルクトースやグルコースなどの糖分を含んでいます。(*但し植物の種類により脂肪酸などの成分組成は異なる。)

 

アリは、運搬時に食料であるこのエライオソームだけをはずして運ぼうとしますが、この部分は種子と堅く結合しているためにはずせないので、エライオソームがついた種子をいったん巣に運び、エライオソームを食べたあとに、種子そのものは不要なものとして捨ててしまいます。(注)

 

何とも不思議。でも完璧な生き残りのシステムです。

 

このように…

・カタクリの子孫繁栄のためにアリは欠かせない存在。

・アリの食料としてカタクリは欠かせない存在。

というお互いにとって利益のある共生関係が成り立っているのです。

 

法律や思想、そして宗教がなくても、このように理想的な共存のシステムが機能している自然界。

学ぶべきことがたくさんあります。


■アリ散布を利用している草花は200種ほどあります。以下はその例です。

 

・スミレ科   スミレ、ツボスミレ、タチツボスミレ、アオイスミレ

・ユリ科    カタクリ、アマナ

・ケシ科    クサノオウ、タケニグサ、ムラサキケマン、キケマン、ヤマブキソウ、ジロボウエンゴサク

・キンポウゲ科 フクジュソウ、ニリンソウ

・アオイ科   イワタカンアオイ、ヒメカンアオイ

・シソ科    ホトケノザ、ヒメオドリコソウ

・カタバミ科  カタバミ

 

■文中(注)

今までは「不要なので捨てる」という説が一般的ですが「エライオソーム付きの種子はアリの子どもの匂いがする」ので、アリた ちはこれを巣の中に持ち込むのですが、子ども(糖分)をなめ、脂質の酸化が進むことによっ て「子どもが死んでしまった」と思わせ、いったん持ち込んだその種子を、巣の外へ運び出さ せるのでは ?…という新説もあります。

 

 

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