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Field Note

フィールド・ノート  NO.Ⅴ-1

不思議な力 アレロパシー

その1

【アレロパシーとは ?

 

 植物は、一旦根を伸ばして生育をし始めると、何らかの外敵に攻撃を受けた場合、動物等のように逃げることができません。

しかし、植物は実に巧みな術を使って、外敵の攻撃をかわしていることが最近の研究によって解明されてきています。

これらの機能の一つが「アレロパシー」という現象です。

 

アレロパシーは「他感作用」と和訳され「ある植物が生産する化学物質が環境に放出されることにより、他植物に直接又は間接的に作用を与えること」と定義されています。

尚その作用には「阻害的」あるいは「促進的」と相反する作用も含まれます。

 

【アレロパシーの例】

 

空き地に最初に侵入するブタクサは、有害物質を出して周りの草の生長を抑えます。

しかし翌年春になると、今度はヒメジョンやハルジョオンが、そして夏にはアレチノギクやヒメムカシヨモギが別の有害物質を出してこれらを駆逐します。

さらにその翌年にはセイダカアワダチソウが有害物質で先住の植物を追い出して、以後しばらくはセイダカアワダチソウンの天下が続きます。

しかし、そのセイダカアワダチソウは自分の有害物質で自家中毒を起こして衰退し、気がつくとイネ科のススキやチガヤ或いはマメ科のクズに取って代わります。

これらはアレロパシー物質の「アロモン」と呼ばれる阻害物質による作用です。

 

また、家庭で馬鈴薯とリンゴを同じ袋に入れておくと、馬鈴薯の芽が出ない。蕎麦を栽培する際には「ルピナス」や「カラシ」などと共生させると収穫量が増えるなどといった事例がありますが、これもアレロパシー作用によるものです。

 

 

 

 

 

写真はアレロパシーを科学し、提唱した

ハンス・モーリッシュ(Hans Molisch)博士

(1856年12月6日 - 1937年12月8日)

オーストリアの植物学者。

 

Category 植物の働き

 

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アレロパシー その2  

フィトンチッド 

【フィトンチッドの効用】

 

森の中で深呼吸すると爽快感と共に気分が落ち着き、身も心もリフレッシュするような感覚を覚えると思います。

これは森林浴効果と呼ばれているものなのですが、それは「なんとなく癒される」といった気分的なものだけではありません。実は、きちんとした理由があるのです。

その「癒し」効果を生みだしているのが、前出のアレロパシー物質の一つで、植物から発散されている「フィトンチッド」という物質なのです。

 

先ずこの「フィトンチッド」には、作りだした樹木自身を護るさまざまな働きがあります。

 

・他の植物への成長阻害作用

・昆虫や動物に葉や幹を食べられないための摂食阻害作用

・昆虫や微生物を忌避、誘因したり、病害菌に感染しないように殺虫、殺菌を行う

 

…と実に多彩です。ちなみに主な成分はテルペン類と呼ばれる有機化合物です。

 

また「フィトンチッド」には空気を浄化・消臭する働きもあるため、森の中では動物の糞尿や死骸が強い悪臭を発したりすることもありません。

 

そしてフィトンチッドは、人間の脳内のアルファ波(α波)を増加させ、気分を落ち着かせるリラックス効果や集中力のアップといった効果と共に、想像力を高める作用も持っています。また肝機能の改善や自律神経の安定にも効果があると云われています。

 

ちなみにウェールズ出身の作家でありナチュラリストのC.W ニコル氏によると、彼の祖先であるケルト民族の云い伝えに「病気になったら森へ行け」という言葉があるそうです。

自然と共に生きていた彼らは、体験として「フィトンチッド」の存在に気が付いていたのでしょう。

昔人の素晴らしい能力と生きるための知恵に改めて感服です。

 

*植物が作り出す二次代謝産物をフィトンチッドと呼ぶこともあり、植物の力を利用するハーブやアロマ、漢方も広い意味では同じジャンルと言えそうです。

 

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アレロパシー その3  

フィトンチッドⅡ

                  ■日本人の食生活に欠かせないフィトンチッドの効用■

 

例 お寿司屋さんにて

 

・寿司をのせる飯台 「ヒノキ」

 ヒノキにはカンファー、α-ピネン、リモネン、カジノールなどテルペン類の成分が多く含まれ、これらの相乗効果に

 より抗菌作用が働く。

 

・寿司ネタを入れたガラスケースのなかに敷かれた「椹(サワラ)の葉」

 サワラにはピシフェリン酸が含有、強い酸化防止作用を持ってる。

 

・「ワサビ」

 ワサビの香りには、アリルイソチオシアネートという成分があり、

 強力な抗菌作用がある。

 

・「お茶」

 カテキンという成分が含まれ、やはり抗菌作用がある。

 

・「ショウガ」通称ガリ。

 ショウガにはゲラニルアセテートという成分があり、やはり抗菌作用がある。

 

*土産のお寿司を包む「経木(きょうぎ、スギやヒノキなどの木を紙のように薄く削ったもの)」や「ササの葉」の細工

 物(バラン)や「シソの葉」にも抗菌作用あり。

 

例 桜餅や柏餅

・桜の葉にはクマリンという強い抗菌性を持った物質が含まれている。

・柏の葉にはオイゲノールという抗菌性物質が含まれている。

・柿の葉寿司、鱒寿司、鮭寿司など押し寿司の類は木の葉で包まれている。いずれも抗菌のため使用。

・日本酒の樽に杉材を用いるのは、木香(きが)をつけて独特の風合いとまろやかな味を出すためだけでなく、防腐効果

 のためでもある。

 

このように植物の持つ優れた能力「フィトンチッド」の働きはわたしたちヒトの食生活にも欠かせないものなのです。

 

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