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生きものは弱いから生きのびる|生命誌研究・中村桂子 × YAMAP 春山慶彦

  • noribo
  • 2024年7月1日
  • 読了時間: 6分

中村 桂子さんは、生命誌研究者。御歳88歳。

東大理学部卒。企業所属の生命科学研究所開設に際し研究員となる。人間社会との接点を測りながら遺伝子研究に携わる。生命体の本質を知るには生物の履歴が必要と考え、生命誌研究館を設立。2002年4月-2020年3月までJT生命誌研究館館長を務め、現 JT生命誌研究館名誉館長。著書に『生命科学から生命誌へ』(1991年)など多数。


春山慶彦さんは1980年生まれ。スマホ用登山アプリでは利用者No.1と言われるアプリ「ヤマップ」。そのヤマップ の代表取締役 CEO。福岡県春日市の出身。同志社大学法学部 卒業。アラスカ 大学フェアバンクス校野生動物学部 中退。ヤマップが目指しているのは人と地球環境がともに豊かになる世界。その実現のため、「地球とつながるよろこび。」のきっかけを、事業を通して多くの人々へ届けている。


そのお二人の貴重な対談をご紹介します。是非最後までご視聴ください。





対談はすべて面白く、これからの人間の生き方、あり方への大切なヒントが随所に散りばめられているのですが、その中からいくつかご紹介したいと思います。


"効率・競争社会のツケ"


中村

「私は新自由主義が大嫌いです。とにかく「競争しろ」と言うでしょう。しかも、1つの価値観に従って、その中で1番、2番、3番……と順位をつける。

人間は生きものであり、生きものにはアリもいれば、ライオンもいる。そこで、「アリとライオン、どっちが上?」と言って比べることなど、決してできない。」


「アリはアリですばらしい、ライオンはライオンですばらしい。アリとライオンのどちらが優れているかと比べるのは無意味ですよね。」


「ライオン、アリ、タンポポ、バラ……。生きものには、本当にたくさんの種類があります。それぞれ全く異なる特徴があるけれど、トータルで見ると全部同じだと思います。人間もそれぞれ個性はあるけれど、トータルで見たら同じ。」


「人間も他の動物や植物と同じように生きものと考えれば、みんな同じ。でも、見た目や特徴はバラバラ。それを1つの物差しだけで測るという社会をつくったら、とても生きにくいに決まっている。

でも、新自由主義はそれをやってしまったから、今、どんどん生きものとしての人間の能力が失われて、価値観もがらっと変わってしまいましたよね。人と人とを競争させて、ギスギスしています。それをやめない限り、よい社会にはならないでしょう。」


"すべての生きものにある40億年の歴史"


中村

「今の生物学には下等生物、高等生物という言葉はありません。なぜなら、生きものは全員、40億年の時間を持っていて、その意味ではタンポポもアリも人間も皆、同じ位置にいます。」


「SDGsが目指すゴールはいいと思うし、それに向けてみんなが一生懸命努力することも、もちろん否定しません。でも、SDGsで、「誰一人取り残さない」って言葉があるでしょう?

私はこれが好きじゃなくて、「誰が言っているの、まるで神様がおっしゃっているみたい」と思います。完璧、「上から目線」になっていますね。」


「人間は生きものなんですから、本来は、「他の生きものも一緒に、みんなで生きましょうね」ということでしょう?

今、SDGsというスローガンの下で、企業も国も動き始めたのはチャンスですし、この動きをうまく活かしていかなければいけないと思います。

特にゴールの13番目、気候変動の問題については、温暖化の原因となっている、石炭や石油を燃やして出る二酸化炭素を減らそうということになって、世界中の国や企業が「脱炭素」の取り組みを始めています。日本政府も、2050年には二酸化炭素を出さない社会にするという目標を掲げました。

でも、「脱炭素」というのはおかしな言葉ですね。そもそも、私たち生きものはすべて炭素化合物でできています。DNAもたんぱく質も糖も脂肪も、全部炭素の化合物で、それが体の中で筋肉や脂肪としてはたらき、私たちの体を動かすエネルギーの素にもなります。

 そして、私たちの吐く息は、呼吸で吸い込んだ酸素と炭素が結合してできた二酸化炭素です。「脱炭素だ」なんて言ったら、私たちはこの世界にいてはいけないし、呼吸もしてはいけないことになってしまうじゃないですか。「二酸化炭素排出抑制」と正確に言わなければ。

こういう言葉遣いひとつとっても、環境に関心があるように見えながら、実のところは自然と向き合っていないな、と気づかされます。 むしろ、自然を征服しよう、新しい技術でなんでも解決しようとしているから、ここを変えないといけないですね。」


春山

「本当に必要なのは、私たち人類が生命誌という全体性の中で生きていることを理解し、実感することにあると思います。

生命誌の全体性が、いのちで実感できていると、そもそも競争したりしないし、存在すること、生きていること自体によろこびを感じられる。」


中村

「そうそう、何かね、自分自身がとてもおおらかになれるんです。「みんな同じよね、アリも仲間よね」と思っていると、何が嫌だとか、あいつがどうしたとか、お金がどうとか、そういうことがあんまり気にならなくなります。「のんびり暮らすのもいいな」みたいにね。」


中村桂子さんによる生命誌絵巻


"人間の弱さが起点に"


中村 「人間ほどへんてこな存在はない。だってなんでこんなことするのっていうこと、たくさんあるじゃないですか。

資本主義なんて考えたりするでしょう。ほかの生き物ならそんなことしないで、一生をきちっと生きているのに、何でこんなにいろいろなものに振り回されて、あたふた生きているのかしら。

 生きものはみな素晴らしいとか、その中でも人間は特に優れている、なんてとんでもない。人間は生きもので、へんてこなんです。へんてこを捨てて立派になろうとするのではなく、へんてこはへんてことして、どうやってきていくかを考えたほうがよっぽど面白いですよ、と言いたい。」


"遊び、無駄、余白について"


中村

「自然のままに生きていた古代の狩猟採集民というのは、狩り以外の時間がたっぷりあったと言われていますね。」


春山

「そうですね。歌ったり、踊ったり。」


中村

「文献を読むと、実際に狩りをしている時間はかなり短いとあります。あとはゆったりとみんなでおしゃべりして、空想の世界の話をしていた、と。昔は狩猟採集民というと、毎日朝から晩まで動物を追いかけていたと思われていましたが、そうではなく、実働時間は我々よりずっと少ないのよね。

農業を始めたら、忙しく働かないといけなくなったけれど、その前の狩猟採集民時代は、余裕があって、それを楽しんでいたことが最近になって分かってきました。人間は本来、そういう生き方をしていたんだなと思いますよね。」


春山

「そうですね。気候変動が喫緊の課題になっている今、大事なことは、人間もほかの生きものと同じいのちであり、自然の一部であるという生命誌・自然観を養うことだと思っています。

気候が変わってきているということは、暮らし方を変えないといけないということでもあります。」



中村

「本当にそうね。私もそう思って生命誌の研究をしているんです。」







 
 
 

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